ダマスクローズの魅力を知る
ダマスクローズは数多くあるバラの品種の中の一つで、ピンクの何枚にも重りあう花びらが丸く咲く姿は優しい印象でとても美しいです。濃厚で甘い香りを放つ品種のため、ローズオイルやローズウォーターの原料として古くから使われていました。栽培の起源は古く紀元前6~5世紀には始まっていたとされ、古代ギリシャ・ローマ時代にはすでに観賞用として知られていました。その後、ダマスクローズを原料としたローズオイルやローズウォーターが製造されるようになり、その優れた効能から薬品としてはもちろん香水としても珍重されました。しかし、希少性ゆえに身分の高い人々だけが使っていたそうです。絶世の美女と言われたクレオパトラや、ナポレオン一世に愛されたフランス皇妃ジョセフィーヌも、ダマスクローズが放つその気品高い香りをこよなく愛したと伝えられています。


ブルガリアの首都ソフィアから東へ約3時間。国の中央を東西に貫くトラキア平原がバラの産地です。そのなかでもクリスウラからカザンラック一帯が「バラの谷」と呼ばれており、北に標高の高いバルカン山脈、南になだらかな丘の連なるスレドナ・ゴラ山脈に挟まれた地形が、冬は温暖で昼夜の気温度差が大きい気候であること、水はけの良い土壌であることから常に清らかな水に恵まれています。これらの条件が合わさったことからブルガリアで世界最高のバラが育つ谷となりました。
世界的な有名な化粧品や香水に必ずといって良いほどに使われている香料こそが、このブルガリア産ダマスクローズオイルです。原料となる花びらは開花して太陽の光が当たると香油成分が蒸発してしまうため、朝の薄暗い早朝のつぼみのうちに摘み取られ、その日のうちに「水蒸気蒸留法」で蒸留されます。その液体の自然分離した上層部がローズオイル、下層部がローズウォーターとなります。ローズオイルが黄金色に対してローズウォーターは無色透明ですが、そのローズウォーターにも0.2~1.1%のローズオイルエキスが溶け込んでおりダマスクローズそのままの濃厚な香りがします。また、ローズオイルは凝固する温度が低いほど良質であるとされています。
バラ品種の中で最も香油成分が多いといわれるダマスクローズですが、それでも1kgのローズオイルを生産するためには約3.5tもの花弁が必要となります。これをバラ畑の広さで表すと約1ヘクタールの収穫量に匹敵し、1グラムのオイルに約3000個の花が使用されているくらいとイメージするとわかりやすいかもしれません。またすべて手摘みで作業をおこなうため、1人で作業をおこなったと仮定すると100日かかる計算になります。太古よりローズオイルが『金よりも価値がある』『エッセンシャルオイルの女王』と言われ続けてきたことが納得ができます。